英語の発音記号|読み方の規則と、覚えるだけでは変わらない理由
辞書を引くと、単語の横に見慣れない記号が並んでいる。読めないまま素通りしてきたけれど、覚えたほうがいいのだろうか。かといって、あの数を全部覚える気にもならない——そんな経験はないでしょうか。
英語の発音記号とは、単語の音を文字で表した記号です。辞書で単語を引いたとき、見出し語の横に `/ə/` `/æ/` のような形で並んでいるものを指します。国際音声記号(IPA)と呼ばれる体系がもとになっていて、1つの記号が1つの音に対応します。
日本の学校ではほとんど教わりません。だから、読めないまま社会人になった方が大半です。
そして、読めるようになるだけなら、思っているより簡単です。母音の記号は並び方に規則があり、暗記はほとんど要りません。難しいのは読むことではなく、読めた音を自分の口で出すことです。 この2つを分けずに始めると、覚えたのに何も変わらない、という結果になります。
この記事では、記号の読み方の規則と、覚えるだけで終わらせない使い方をお伝えします。書いているのは、英語コーチングスクール・ミライズです。発音を専門に教えているシャベリッシュで、実際に教えている内容をもとにしています。
使うのは話す力、学んでいるのは読む力
最初に、1つの事実から始めます。日本の社会人が英語で困っている場所と、学習している場所は、一致していません。
スキルアップ研究所(学研グループ)が、業務で実際に英語を使う社会人200人に行った実際の業務における英語4技能に関する実態調査(2025年9月)に、その数字があります。
| 技能 | 業務で頻繁に使う | 苦手だと感じる | 学習している |
|---|---|---|---|
| スピーキング | 61.5% | 44.5% | 30.9% |
| リスニング | 48.5% | 29% | — |
| リーディング | 44% | 27.5% | 31.9% |
| ライティング | 27% | 16% | — |
左の2列は同じ並びです。使う頻度が高い技能ほど、苦手意識も強い。スピーキングは両方で1位、ライティングは両方で最下位でした。
ところが右端の列だけ、順番が入れ替わります。業務でいちばん使い、いちばん苦手なはずのスピーキングではなく、リーディングが学習の1位になっています。
音の学習には「答え合わせができない」壁がある
なぜ逆転が起きるのか。調査主体はこの背景を、スピーキングは独学で学習しにくく、リーディングは教材が豊富で取り組みやすいためだと説明しています。
例えばリーディングなら、教材を開けばその場で始められます。正解は本に書いてあり、自分の答えが合っているかを1人で確認できます。
音はそうではありません。自分が出した音が合っているかどうかは、自分の耳では判定できません。答え合わせの手段がないから、後回しになります。 差は意欲ではなく、1人で確認できるかどうかです。
こう見ると、発音記号は珍しい位置にある道具です。音という「確認しづらいもの」を、文字という「確認しやすい形」に変換してくれます。 辞書を引けば、その単語の正しい音の並びが目で見えます。
音の学習の入口としては、これ以上のものはありません。ただし——入口です。この記事の結論を先に言えば、記号は「どこを直すか」を教えてくれますが、「直せたか」は教えてくれません。 まず、この線引きから見ていきます。
記号は入口。ただし、入口で終わる
シャベリッシュは、2か月のプログラムです。教材は、ミライズが延べ1万人の受講生に提供してきた発音レッスンをもとに開発しました。そこで扱うのは、発音記号だけではありません。
記号に加えて、音声変化と発声方法を中心に据えています。リンキング(音の連音)、リダクション(音の脱落)、フラッピング(音の弾音化)、アクセント、イントネーション、リズム。記号は、この全体の入口にあたる1つです。
単語1つを正しく読めても、文になった瞬間に音はつながり、落ち、弾みます。記号を読めるようになっても、その先が残っています。
記号は、自分の音を採点してくれない
もう1つ、記号にできないことがあります。出した音の答え合わせです。
記号が示すのは「出すべき音の条件」です。`/æ/` なら、舌を前に置いて口を大きく開ける。読めば理解できます。ただ、実際にその形を作れているかは、記号のどこにも書かれていません。舌の位置は鏡に映らず、自分の耳は自分の音に慣れきっています。
だから私たちのプログラムでは、受講の開始時と卒業時に発音診断テストを行い、チェック項目から優先順位の高い音を抽出して、その人専用のカリキュラムを組みます。どの音から直すかは、人によって違うからです。
レッスンは、講師が見本を示して反復を繰り返すオーディオリンガルメソッドに基づきます。担当する日本人トレーナーは、一般社団法人英語コーチング協会の認定資格を持つ英語指導のプロです。机に向かう勉強ではなく、口を動かして、出した音をその場で直してもらう練習です。
これらはすべて、記号の外にある工程です。 正しい音を知る(記号)→ 実際に出す → 合っているか確かめる。この3つが揃って、初めて音が変わります。記号が担当するのは、最初の1つだけです。
記号を「知っていた」人ほど、確かめてから変わった
この線引きは、受講者の声にもはっきり出ています。変わった人たちは、記号を知らなかったのではありません。知っているのに変わらない状態から始めています。
独学でTOEIC845点と英検準一級を取った古庄さんは、カリキュラムで良かった点の1つ目にこう挙げています。
1つ目は講師とのレッスンで、基礎の基礎である発音記号からスタートできたこと
続けて、こう話しています。
音の出し方を本で学んだことはあっても、自分の発する音が本当にあっているか分かっていませんでした
本で学ぶところまでは、1人でできていました。止まっていたのは、答え合わせです。
「見たことはある」と「使える」のあいだ
イギリスに赴任したTさんも、同じ場所でつまずいていました。
発音記号自体は今まで見たことはあったのですが、実際にどのように発音するかは全く分かっていませんでした
Tさんはレッスンで、上手く発音できていない記号だけを教わり、講師と一緒に1つずつ確認していったといいます。全部をやり直したのではなく、できていない記号を選んで、そこだけ潰していく形です。
映画制作業界の佐野さんは、もっと知っていた側でした。
発音記号は知っているし、『Rの発音は舌を丸める』みたいな一般的なノウハウも心得てはいたつもりですが、実際に発声の反復練習を行うと非常に勉強になりました
3人に共通するのは、記号の知識は持っていたことです。 変わったのは、その記号が自分の口でどう出ているかを、外から確かめてもらってからでした。
そして3人とも、記号を捨てていません。`/æ/` が出せていない、と名指しできたから、練習はその1音に絞れました。記号がなければ「発音がよくない」で止まり、どこから手をつけるかが決まりません。記号は音を直す道具ではなく、直す場所を名指しする道具です。 そう使えば、これほど効率のいい道具はありません。
では、その読み方です。
母音記号は「舌の位置」と「口の開き」で読む
母音の記号は15ほどあります。ばらばらに暗記する必要はありません。舌の頂上をどこに置くかと、口をどれだけ開けるか。この2つで、ほぼ全部が整理できます。
その前に、大きな分類が1つあります。母音は3つのグループに分かれ、グループごとに口の動かし方が違います。
- 単母音(7つ) — `/æ/` `/ʌ/` `/ɑ/` `/ə/` `/i/` `/u/` `/e/`。口の形を1つ作って、そのまま出す
- 長母音(4つ) — `/iː/` `/uː/` `/ɔː/` `/ər/`。形を保ったまま、長く伸ばす
- 複合母音(5つ) — `/aɪ/` `/aʊ/` `/eɪ/` `/ɔɪ/` `/oʊ/`。口の形が途中で動く
見分け方は簡単です。記号が2文字なら、口も2段階動きます。 例えば `/aɪ/` は、強めの「ア」から始めて、顎を閉じながら弱く短い「ェ」へ移る音です。1文字か2文字かを見るだけで、口を動かすかどうかが決まります。
舌の位置は3列。開き具合で縦に並ぶ
グループが分かったら、位置です。舌の頂上の置き場所は前・真ん中・奥の3つで、それぞれの列の中で、口の開きが小さい順に並びます。
舌を前に置く列
| 記号 | 口の開き | 例 |
|---|---|---|
| `/iː/` `/ɪ/` | あまり開けない | achieve `/ətʃíːv/`、decide `/ˌdɪˈsaɪd/` |
| `/eɪ/` `/e/` | 自然に開く | great `/greɪt/`、end `/ɛnd/` |
| `/æ/` `/aɪ/` | 大きく開ける | apple `/æpl/`、price `/praɪs/` |
舌を奥に置く列
| 記号 | 口の開き | 例 |
|---|---|---|
| `/uː/` `/ʊ/` | あまり開けない | prove `/pruːv/`、would `/wʊd/` |
| `/oʊ/` | 自然に開く | hope `/hoʊp/` |
| `/ɔɪ/` `/ɔː/` | 大きく開ける | oil `/ɔɪl/` |
2つの表は、段が対応しています。例えば `/ɪ/` と `/ʊ/` は、どちらも口をあまり開けない音で、違いは舌が前か奥かだけです。15個の暗記が、「3列×開き具合」という1つの表に変わります。
真ん中の列に、日本語の「ア」もどきが集まっている
残るのが、舌を真ん中に置く列です。`/ər/` `/ə/` `/ʌ/` `/ɑ/` `/aʊ/` の5つで、口の開き具合だけで分かれます。letter、abroad、company、want、tower がそれぞれの例です。
この列は要注意です。日本語の「ア」に近く聞こえる音が集まっていて、日本語話者がいちばん混同しやすい場所です。日本語では全部「ア」で済んでいた区別が、英語では5つに分かれています。
なかでも `/ə/` は特別です。英語でもっとも多く出てくる母音で、強く読まれない音節がこの記号に縮みます。abroad の a、company の後半、letter の後半——どれも `/ə/` です。
出し方は、口を少しだけ開けて力を抜き、喉の奥から空気を出すだけ。形を作りにいくほど遠ざかる、力を抜くことが正解の音です。 丁寧に発音しようと頑張るほど別の音になる、という点で他の母音と性質が違います。
子音記号は3つの条件の組み合わせで決まる
子音は24あります。母音とは決まり方が違い、場所・方法・喉の3つの条件で1つの音が決まります。
- 場所 … 唇か、歯か、舌の付け根か
- 方法 … 破裂させるか、摩擦させるか、鼻に抜くか
- 喉 … 震わせる(有声音)か、息だけ(無声音)か
負担は母音より軽くなります。日本語にある音がそのまま使える記号が多く、新しく覚えるのは限られた数だけで済みます。
似た記号のペアは、喉だけが違う
子音の一覧を見ると、似た記号が隣り合っています。偶然ではなく、口の形がまったく同じ2つを並べてあるためです。
- `/k/` `/g/` — 舌の付け根を上げて、瞬間的に破裂させる
- `/s/` `/z/` — 上下の歯をくっつけ、隙間から摩擦させる
- `/ʃ/` `/ʒ/` — 唇を丸めて、日本語の「シュ」の形をとる
- `/tʃ/` `/dʒ/` — 舌を口の天井につけ、唇を丸めて摩擦させる
各ペアの違いは1点だけです。左は息だけ、右は喉を震わせる。 口の中は1つも動かしません。ペアの片方が出せるなら、もう片方は喉を震わせるだけで出ます。
「ン」に聞こえる音に、記号が3つある
もうひとつ、まとめて押さえたほうが早いのが `/m/` `/n/` `/ŋ/` です。語尾に来ると、日本語話者にはすべて「ン」に聞こえます。remember の m、happen の n、king の ng です。
3つとも鼻から息を抜く音ですが、口の中で塞ぐ位置が違います。`/m/` は両唇を閉じ、`/n/` は舌先を歯茎の裏につけ、`/ŋ/` は舌の付け根を上げます。
記号が3つ用意されているということは、英語ではこの3つが別の音として扱われているということです。 日本語の「ン」で代用すると、3つの区別が1つになります。
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読み方が分かったら、あとは使い方です。覚えるためではなく、確認するために使います。
新しい単語は、記号とセットで入れる
いちばん効くのは、これから覚える単語です。
仕事の専門用語は、耳から入る機会がないまま文字だけで覚えることが多くなります。`data` を「データ」、`schedule` を「スケジュール」とカタカナで固定してしまうと、会議で相手が言った同じ単語が聞き取れません。辞書で記号を一度確認するだけで、この行き違いは減らせます。
あいまいな音のままつづりだけ覚えると、あとで直す作業が別に発生します。最初から音とセットで入れるほうが、結局は速くなります。
長く使ってきた単語ほど、一度疑う
すでに覚えた単語にも使えます。長く使ってきた単語ほど、間違った音のまま固定されています。
記号を見て初めて「この単語、そう読むのか」と気づく場面は、学習歴が長い人ほど多くなります。例えば会議で毎回使う語を5つ選んで辞書を引くだけでも、思い込みが1つ2つは見つかります。
辞書では、強く読む位置まで書いてある
辞書の発音記号には、個々の音を表す記号だけでなく、強勢などの情報も含まれています。company /ˈkʌmpəni/ の ˈ は第一強勢を表し、その直後から始まる音節を最も強く発音することを示します。
一方、ˌ は第一強勢より弱い「第二強勢」を表します。例えば、information /ˌɪnfərˈmeɪʃən/ では、ˈ の後の音節に第一強勢が、ˌ の後の音節に第二強勢があります。
つまり記号列を見れば、どの音でできているかとどこを強く読むかの両方が分かります。強く読む位置の決め方は、アクセントの記事で扱っています。
フォニックスとは役割が違う
似た文脈で出てくるフォニックスは、つづりと音の関係を学ぶ方法です。英語圏の子どもが読み書きを覚えるために作られたもので、つづりから音を推測できるようにします。
発音記号は、その推測が効かない部分を埋めるものです。cat・father・about の a のように、同じ文字でも音が違う場合は、記号でしか確かめられません。役割が分かれているので、どちらか一方を選ぶものではありません。
全部を暗記する必要は、最後までない
40種類以上の記号のうち、手をつける価値があるのは日本語に無い音だけです。
母音は3列の表で読めます。子音は日本語にある音をそのまま使えます。残るのは、`/ə/` や `/æ/` のような日本語に対応がない音と、`/s/` `/z/` のような喉の切り替えだけ。そこだけ確かめれば、記号はもう仕事を終えています。
まとめ|記号で場所を見つけて、口で確かめる
発音記号は、音という確認しづらいものを、目で見える形に変えてくれる道具です。
母音15は、単母音・長母音・複合母音の3グループに分かれ、舌の位置3列×口の開き具合で読めます。子音24は、場所・方法・喉の3条件で決まり、似たペアは喉だけが違います。暗記はほとんど要りません。
ただし、記号が教えてくれるのは「出すべき音の条件」までです。自分の口がその条件どおりに動いているかどうかは、記号だけでは確認できません。実際の音を聞いたり、誰かに発音を確認してもらったりする必要があります。
記号を使ってつまづいている箇所を特定し、実際に口を動かし、その発音を外から確かめてもらう。
この順番で使ったとき、発音記号は最も力を発揮します。
