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医療英語はどこまで必要か|勤務先に通訳がいるかで変わる

ビジネス英語

外国人の患者さんが来院した。通訳を呼ぼうとして、そういえばうちにはいない、と気づく。結局その場にいた自分が対応することになる——そんな経験はないでしょうか。

「医療英語」と検索すると、場面別のフレーズ集や単語リストが並びます。ただ、知りたいのは例文そのものではなく、自分がどこまで話せる必要があるのか、ではないでしょうか。

ミライズの体験談には、医療の現場で英語を使う方がいます。

看護師の吉田さんは日本で看護師を経験したのち、ニューヨークの大学院に通いながら現地の病院で働いています。それでも「もともとアメリカの大学院に入り看護師として英語を使って働いていても、発音のせいで英語を話すことに対するコンプレックスがあったんです」と振り返っています。

獣医師の中村さんは、「海外の病院に研修で訪れたり、海外の論文を読んだりする機会がしばしばあったので、全く英語に触れていない状態ではなかったです」と話します。それでも話すほうは「英語で話すときは単語とボディーランゲージのみでコミュニケーションをとっていました」という状態だったと振り返っています。

いずれも、英語コーチングスクール・ミライズで学んだ受講者です。公式サイトでは200件以上の体験談を本人の言葉のまま公開しています。この記事では、勤務先に通訳がいるかどうかで分けて、必要な英語を整理します。

まず自分の勤務先を確認する|通訳がいる病院といない病院

医療英語がどこまで必要かという問いに、共通の答えはありません。勤務先の体制によって、自分が話す量がまったく変わります。 まず、全国の病院がどうなっているかを見ます。

通訳がいる病院は355、いない病院は4,960

厚生労働省が全国の病院を対象に行った「令和4年度 医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」(病院4,700回答・令和4年9月)によると、医療通訳者が配置されている病院は6.7%(355病院)でした。配置されていない病院は93.3%(4,960病院)です。

同じ調査では、2022年9月の1か月間で、回答病院の約5割に外国人患者の受入がありました。

つまり、およそ半数の病院に外国人患者が来ていて、そのうち通訳がいるのは1割にも満たない。残りの現場では、その場にいた職員が対応することになります。

体制の整備状況も同じ方向を示しています。同じ調査では、外国人患者対応の専門部署が「ある」と答えた病院は0.1%、「ない」が98.7%でした。外国人対応のマニュアルを「整備している」と答えた病院は1.4%、「整備中である」が6.6%です。

専門部署もマニュアルも無い状態で、目の前の患者に対応しているというのが、多くの現場の実態です。

そもそも実態を把握できていない病院もあります。自院における外国人患者の受診状況(患者数・国籍・言語など)について、「詳しく把握している」と答えた病院は19.7%、「おおまかに把握している」が50.9%、「把握していない」が27.7%でした。

4分の1以上の病院が、自院に何語を話す患者が何人来ているかを把握していない。準備しようにも、何に備えればよいかが見えていない状態です。

患者側は「4%」でも、現場では日常になる

患者側の数字も見ておきます。観光庁の「訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査」(n=3,069・令和5年10月〜令和6年2月)では、訪日旅行中に病気や怪我になったと回答した人は約4%でした。うち約6割は風邪や熱の症状です。

例えば旅行者100人のうち4人と考えると、少ない数字に見えます。ただしこれは患者側から見た割合です。

受け入れる側から見ると、景色が変わります。訪日客の総数が増えれば、医療機関に来る人数はそのまま増えます。そして1人の患者に対応するのは、その場にいた1人の職員です。割合が小さくても、当たった人にとっては100%の出来事になります。

しかも症状の6割は風邪や熱です。専門的な治療よりも、問診で症状を聞き取る場面が中心になります。通訳を手配する時間もないまま、その場のやりとりで進むことが多いということです。

自分の行を見つけてから読む

勤務先の体制で、必要な英語は変わります。

あなたの勤務先割合英語がどこまで要るか読む章
①医療通訳がいる6.7%通訳を介す場面は任せられる。ただし夜間・急変・日常会話は自分次の章
②医療通訳がいない93.3%外国人患者が来たら、その場にいた自分が対応するその次の章

どちらかによって、次にやることが変わります。該当する章に進んでください。

まず、通訳がいる側から見ていきます。

①通訳がいる病院|任せられる場面と、任せられない場面

通訳がいる病院に勤めているなら、英語は不要でしょうか。

結論から言えば、不要にはなりません。通訳が入るのは診療の中核部分で、それ以外の時間は現場が対応することになります。

通訳が担っているのは「調整」が中心

厚生労働省の同じ調査では、外国人患者受入れ医療コーディネーターの役割として、「院内の部署・職種間の連絡調整」が89.3%で最も高く、次いで「患者や患者家族とのコミュニケーション」が79.3%でした。対応言語は「英語」が85.4%で最多です。

つまり通訳やコーディネーターの主な仕事は、部署をまたぐ調整と、要所での通訳です。

通訳が入らない時間のほうが長い

一日の流れで考えます。例えば、検温、配膳、点滴の交換、ナースコールへの応答、消灯前の声かけ。これらすべてに通訳が同席することはありません。予約のある診察や説明の場面に通訳が入り、それ以外の時間は現場が直接やりとりします。

夜間や休日、急変時も同じです。これは印象の話ではありません。同じ調査で、コーディネーターがカバーしている日時を聞いたところ、「平日の日勤帯」が76.9%で最も高く、「その他」が15.4%でした。さらに専任・兼任の別では、「兼任のみ配置」が84.6%です。

平日の昼間に、他の業務と兼任で対応している。これが標準的な形です。夜間・休日・時間外は、その場にいた職員が対応することになります。

例えば救急外来を考えてみます。夜間に外国人の患者さんが搬送されてきたとき、コーディネーターは在院していません。痛みの部位、いつからか、既往歴、アレルギーの有無。これらを聞き取るのは、そのとき勤務している看護師や医師です。

入院病棟でも同じです。消灯後のナースコールに、通訳が同席することはありません。

ここで起きることを、外国人患者の多い環境で働いていた元ナースの方が話しています。

患者さんのケアをしていく中でどうしても外国の方に対しては、やりとりが全て英語の方もいたので、英語を使えないことで日本人よりもケアが劣ってしまっていたと感じました。

やりとりが成立していなかったわけではありません。成立はしていて、そのうえで届かない領域があったという話です。

もっと話したいことがたくさんあるのに話せない。何が食べたい?何が欲しい?どこが痛い?という簡単な会話だけで、深い部分に入り込めていませんでした。

通訳が担うのは、診療の要所です。 この方が届かなかったのは、その手前と後ろにある時間のほうでした。

「足りている」とは言われていない

そして、通訳がいる病院でも体制が十分とは評価されていません。

濱井妙子氏らが全国の自治体病院894施設を対象に行った「全国自治体病院対象の医療通訳者ニーズ調査」(日本公衆衛生雑誌64巻11号・2016年2月調査)によると、訓練を受けた医療通訳者が必要と考える割合は、小病院で75.7%、中病院で84.7%、大病院では94.6%にのぼりました。

規模が大きい病院ほど必要性を感じている。すでに通訳がいる病院ほど、足りないと答えているという読み方もできます。

必要と考える理由も明確です。同じ調査で最も多かったのは「医療リスクを低減するため」で、病院規模を問わず81.1〜94.3%の範囲でした。

つまり通訳を求めるのは、会話を円滑にするためというより、間違いを起こさないためです。なお同じ調査では、患者が自分で連れてきた通訳者が正確に通訳していると考えている病院は、小病院66.7%、中病院58.5%、大病院では44.7%にとどまりました。家族や知人が通訳する形は、現場から見て必ずしも信頼されていないということです。

通訳がいる側でも、自分が話す場面は残ります。任せられるのは要所であって、日常のやりとりではありません。

では、通訳がいない9割の現場ではどうなるのでしょうか。

②通訳がいない病院|言葉の行き違いは記録に残っている

通訳がいない病院では、外国人患者が来たときに対応するのはその場にいた職員です。その場でどうしているかを、病院に勤める保護者の方が話しています。

外国人の方が病院に来られることは時々あるので痛いとかの単語程度なら。

頻度は高くない。だから単語で凌げてしまう。凌げているうちは、問題として立ち上がりません。ただし、ここで起きることは語学の問題にとどまりません。

インシデントとして報告されている

先ほどの自治体病院調査(2016年2月・894施設対象)では、言葉の問題によるインシデントが報告されています。

回答のあった274病院のうち13病院(4.7%)から、17事例が報告されました。内訳は影響レベル0が3事例、レベル1が9事例、レベル2が1事例、レベル5が1事例、その他が3事例です。

論文には、それぞれがどのような事象だったかも記されています。レベル0はMRIの中止など。レベル1は無断離院や点滴の自己抜去など。レベル2は墜落分娩が1事例。そしてレベル5は、死亡時の訴訟にあたる1事例でした。

抽象的な「意思疎通の難しさ」ではありません。検査が中止になる、患者が黙って帰ってしまう、点滴を自分で抜いてしまう。いずれも現場で実際に起きた事象として報告されています。

件数としては多くありません。ただし、言葉の行き違いが記録に残る形で医療の問題になっているという事実は変わりません。

現場の当事者が語っていること

ニューヨークの病院で看護師として働く吉田さんは、発音についてこう述べています。

看護師である以上、診断結果や薬の名称など、発音を間違えてミスコミュニケーションに繋がってはいけないシーンは多々あります。

「診断結果や薬の名称」という具体性が要点です。日常会話であれば、通じなければ言い直せば済みます。ところが薬剤名や検査結果は、聞き間違いがそのまま処置に反映されます。

例えば、似た音の薬剤名は実際に存在します。日本語話者にとって区別しにくい音が含まれていれば、伝わらない可能性はそのぶん上がります。

「通じている」と思っていても

吉田さんが発音を学び直したきっかけは、病院ではなく大学院の学食でした。配給係の方から、面と向かって「君の発音、伝わらないよ」と言われたそうです。

日々英語を使って患者さんとコミュニケーションをとっているにもかかわらず、英語が通じないと言われたことはかなりショックでした。

毎日英語で働いていても、通じているかどうかは自分では分かりません

吉田さんはアメリカに来て4年目でした。友人や職場の同僚と話していても、アクセントが1つ違うだけでまったく伝わらないことがあった、と振り返っています。それでも指摘されるまでは、自分の発音が問題だと確信できずにいた。

患者さんは、分からないと言い出しにくい立場にあります。医療者に対してならなおさらです。痛みや不安を抱えた状態で、相手の英語が聞き取れないと伝えるのは簡単ではありません。

通訳がいない現場では、この確認をしてくれる人もいません。だからフレーズを増やすことよりも、いま持っている言葉が通じる音になっているかのほうが先に問題になります。

では、何から始めればよいのでしょうか。

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どちらの側でも、最初にやることは同じ

通訳がいてもいなくても、最初にやることは変わりません。単語を増やすことではなく、いま使っている言葉が通じる音になっているかを確かめることです。

医療で使う語彙の多くは、もともと英語から来ています。カルテやカンファレンスで日常的に目にする語は、すでに頭に入っています。詰まるのは知識ではなく音の側です。

日本語にない音を作る

日本語話者がつまずく音は決まっています。例えば RとLは、日本語ではどちらもラ行として処理されるため、区別して出す習慣がありません。分かれ目は、舌先が口の中のどこかに触れるかどうかです。Rでは唇を丸めたまま舌先を口の天井から浮かせて喉のほうへ引き、Lでは逆に舌先を上の前歯の裏の生え際へ当てて、そこから強く弾きます。

THは、舌の位置そのものが日本語にありません。舌先を上下の歯のあいだから少しのぞかせ、引きながらこすります。

口の形は変えずに、息だけを通せば `/θ/`、喉を震わせれば `/ð/` となり、同じ構えから2つの音を作り分けます。母音の `/æ/` は日本語の「ア」と「エ」の中間にあたる音で、顎を軽く下げ、唇を左右に広げて喉の奥で響かせます。

どれも舌と唇の動かし方であって、知識として覚えれば済むものではありません。手技と同じで、繰り返して初めてその通りに動くようになります。

先ほどの吉田さんも、苦手な音は具体的でした。

私は「th」の発音が苦手だったので、レッスンでは「th」の音が入った単語がたくさん使われている教材が用意されていたのは嬉しかったです。

苦手な音は人によって違います。そして自分がどの音でつまずいているかは、指摘されるまで分かりません。

自分では分からない

もうひとつ、独学では難しい部分があります。吉田さんは以前、アプリを使って独学で発音の練習をしていたそうです。そのうえで、レッスンで印象に残ったこととして次を挙げています。

自分では発音しているつもりでも出来ていない部分を的確に指摘してもらった時

自分の発音が正しいかどうかは、自分では判定できません。自分の声は空気を伝わる音だけでなく、頭蓋骨を通して直接届く音も混ざって聞こえるためです。

医療の現場でも同じことが起きます。患者さんは、聞き取れなくても言い出しにくい立場にあります。通じていないことに気づけないまま、通じているつもりで続いてしまう。吉田さんが学食で言われるまで気づかなかったのも、この構造です。

自分が最も多く使う場面から

範囲は絞ります。全部を想定すると準備が終わりません。自分が最も多く使う場面を1つ選び、そこで出てくる言葉から声に出します。病棟なら患者への声かけと状態確認、外来なら受付から診察までの導線、薬剤部なら服薬の説明。それぞれ数十語に収まります。

英語から離れていた期間があっても、ここから始められます。中村さんは、英語との距離をこう振り返っています。

大学卒業後は獣医師として働くのですが、海外の病院に研修で訪れたり、海外の論文を読んだりする機会がしばしばあったので、全く英語に触れていない状態ではなかったです。

読む機会はあった。けれども話す練習はしていなかった。この形は、医療職では珍しくありません。

この方は、学び直す前の状態をこう振り返っています。

ハツオン受講前は、同僚や部下が英語を喋っていると萎縮してしまう自分がいたのですが、ハツオンを受講した後は英語を話す時に心の余裕と自信が生まれるようになったんです。

そして受講後の手応えを、次のように整理しています。

自分はひとまず発音はクリアできた。あと残すは、英語を使う場数や単語量だけ対策をしたら大丈夫だ

発音が片付くと、残りの課題が見えるようになる。逆に言えば、音のところで止まっていると、何が足りないのかも分からないままになります。

変わるのは会話の量ではなく、関係のほう

吉田さんは、発音を学び直したあとの変化として、担当した患者さんから退院の日に "My favorite nurse" と言ってもらえた経験を挙げています。そのうえで、こう述べています。

患者さんとのより良い関係は日常の会話の中から生まれてくるものだと思います。

日常の会話、という部分が要点です。診療の説明には通訳が入ることもあります。ただ、検温のときの一言や、退院前の雑談に通訳は同席しません。

そこで通じるかどうかが、患者から見た「話せる医療者かどうか」を決めています。

まとめ|勤務先が違えば、要る英語も違う

医療通訳者が配置されている病院は6.7%にとどまります。そして回答病院の約5割に外国人患者の受入がありました。

通訳がいる側でも、日常のやりとりは自分で対応します。コーディネーターがカバーしているのは平日の日勤帯が76.9%で、84.6%が兼任です。夜間や休日、消灯後のナースコールに通訳は同席しません。

通訳がいない側では、その場にいた職員が対応します。言葉の問題によるインシデントは、自治体病院の調査で17事例が報告されました。MRIの中止、無断離院、点滴の自己抜去。いずれも実際に起きた事象です。

どちらの側でも、最初にやることは同じです。単語を増やす前に、自分が最も多く使う場面の言葉を声に出して、通じる音になっているかを確かめる。範囲を絞れば数十語に収まります。

そして、通じているかどうかは自分では分かりません。吉田さんが学食で言われるまで気づかなかったように、確かめる相手が要ります。

自分の勤務先はどちらか。それを確かめるところから始まります。

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