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医師の英語は「論文は読めるのに話せない」|原因は才能ではなく、話す量の環境差だった

ビジネス英語

論文は毎週読む。学会の抄録も英語で書ける。それなのに、外国人医師が交じった席では、周りが話し出すのに合わせて相づちを打つだけ——「読めるのに、話せない」。多くの医師が感じている英語の悩みは、たいていこの形をしています。

「医師 英語」で検索すると、医学英単語の覚え方・アプリ・参考書の紹介といった記事が並びます。ですが、単語ならもう知っているはずです。足りないのは知識ではなく、知識を口から出す訓練の方ではないでしょうか。

実際に、この悩みから抜けた人がいます。内科医の上原さんは、病院に専属の通訳がいたため、それまで英語で話す機会がほとんどありませんでした。学習を重ねるうちに、医療分野での英語スキルが身についたと実感するまでになっています。

ミライズは、2012年の創業以来、社会人の英語学習をサポートしてきた英語コーチングスクールです。公式サイトでは200件以上の体験談を本人の言葉のまま公開しており、その中には医師・獣医師・製薬企業勤務・クリニック勤務など、医療の現場で働く人の声も残っています。この記事では、その声をもとに医師が英語を話せるようになるには何が要るのかを整理していきます。

医師の英語が「論文は読める・会話は沈黙」で止まる理由

この章では、医師が直面する英語学習の課題を、統計と実例から確かめます。なぜ読む力と話す力にこれほどの差が生まれるのか。理由は医師の職場環境そのものにあります。

数字が示す実態——医師の4人に3人は英語に自信がない

英語に自信を持つ医師は、想像以上に少ないのが実情です。

日経メディカルOnlineが2023年7月に医師9,278人に行った調査によると、英語力に「自信がない」と答えた医師は4人に3人(約75%)にのぼり、「自信がある」と答えたのはわずか約1割にとどまりました。

自由記述の欄には「読めるだけでなく話せるようになりたい」という声が寄せられています。あなたが感じている「読めるのに話せない」は、少数派の悩みではありません。

医学部では英語論文を読む訓練を何年も積みます。ですが、英語で話す訓練は、医学教育のどの段階にも組み込まれていません。読み書きで事足りる環境では、話す必要性を感じる機会がありません。

読む力と話す力の差は、個人の努力不足ではなく、キャリアを通じて誰にも設計されてこなかった空白です。

読める環境ほど、話す機会が消える

内科医の上原さんの体験が、その典型です。

医学の勉強をする際には英語で書かれた論文を読むので、リーディングスキルは使っていましたが、私の病院では専属の通訳がおりますので、英語で話す機会はあまりなかったですね

専属通訳がいる職場では、読む英語こそ毎日使うのに、話す必要が消えていきます

ネイティブスピーカーが職場にいても、話す量は増えません。

私が所属している病院では海外出身のネイティブスピーカーもおりますが、時折話す程度で、自分からは積極的には話さないですね

周囲に英語話者がいるという環境だけでは、発話の機会には繋がらないということです。

さらに根本的な課題がありました。医師免許取得の過程に、話す英語の訓練が組み込まれていないのです。

センター試験の為に英語を勉強していただけで、特に医師免許を取る為に英語の勉強はしていませんでした

受験で読む英語を鍛えたあと、話す英語を訓練する機会は一度もないまま医師になる。医学部の教育から日常業務まで、読む場面は用意されているのに、話す場面はそもそも設計されていません

その結果、外国人医師との席ではこうなります。

たまに外国人医師がいる席などで、周りが英語で喋り出せば僕も合わせて話す程度で、あまり話す機会はないですね

周囲の会話に乗る形で、主体的に発話する経験を積まないまま年を重ねていくことになります。

例えば、週に1度そうした席があったとしても、自分が話すのは相づちと短い同意だけ。1年で50回その場にいても、実際に組み立てて話した回数はほとんど増えません。同じ場にいることと、話す量が増えることは別です。

「合わせて話す程度」の日々が続く

この形は、医師だけの課題ではありません。医療関連の専門職に共通しています。

獣医師の栗原さんも、同じ状態を語っています。

日本で働いているときは、論文を読むときに英語を使います。スピーキングとリスニングはほぼ使う機会がないですね

製薬会社で働く吉村さんも、こう話しています。

仕事ではMR(医薬情報担当者)として論文を読む機会がありましたが、英語が使えなくて困る場面自体はそこまで多くありませんでした

重要なのは、一度話せるようになった人でさえ、日本の職場では話す力だけが失われることです。

栗原さんはニュージーランドにいた頃、仕事も生活も英語だけで過ごしていました。それでも日本に戻ると、こうなります。

ニュージーランドから帰ってきて半年ほど経つのですが、スピーキングだけ圧倒的に落ちました

リスニングは「TEDチャンネルなどを聞けばそんなには落ちない」、読み書きもほぼ落ちない。落ちたのはスピーキングだけでした。

話す力の低下は能力の問題ではなく、職場に発話の機会がないことから起きている場合があります。

論文を読む、学会の抄録を書く、資料を読解する。医療職の英語は、受け取る側のスキルだけで長く回ってしまいます。話す場面は通訳や周囲の英語が得意な人が埋めてくれるため、自分の番は回ってきません。

医学論文を読みこなす力は、患者さんの診療に直結します。一方で、英語で他者と対話する力は、多くの病院で二次的なものとして扱われます。優先順位のつけ方としては合理的です。だからこそ、話す機会だけが消えていきます。

では、同じ病院で流暢に話す医師と、何が違うのか。次章で見ます。

「後輩は流暢」の差は才能ではなく、話す量の環境差

同じ病院に勤める後輩の方が流暢に話している。その差は才能や努力量ではなく、環境が作る「話す量の差」です。

流暢な医師が持っていたもの

内科医の上原さんは、こう驚いています。

特に最近の後輩は凄く流暢に英語を話すので、正直びっくりしています

この驚きが、学び直しの起点になりました。

私の周りの医師達が流暢に英語を話すので、自分ももう少し話せるようになりたいなと思ったのもセブ島留学にチャレンジしようと思った理由の1つです

では、その流暢な後輩は何が違ったのか。上原さんにセブ島留学を勧めたのは、フィリピンに2ヶ月間留学した経験を持つ後輩でした。流暢に話す側には「話す量を確保した期間」があったということです。

一方の上原さんの職場には専属の通訳がいて、診療は日本語で回ります。外国人医師がいても「合わせて話す程度」。同じ病院にいても、積んできた発話量がまるで違います。

「読めるのに話せない」は医師だけではない

この空白は、日本の高等教育を勝ち抜いてきた人に共通して現れます。

銀行で経理を担当する田中さんも、同じ悩みを持っていました。

大学入試のときに英語を勉強したおかげで、リーディングは比較的得意でしたが、入試に出題されないリスニングとスピーキングは苦手でした

大学入試の英語は「読む・聞く」に偏り、「話す」訓練は仕組まれていません。医師の上原さんも、銀行員の田中さんも、背景にあるのは同じ空白です。

コンサルタントの方も、こう振り返っています。

リスニング、リーディングに関しては自分なりに一生懸命勉強したんですけど、スピーキング、ライティングの上達は独学では難しかったです

医療の現場では、この形がさらに濃く出ます。クリニックに勤めるN・Kさんの言葉が、それを最もはっきり表しています。

本当に困った時は、英語がペラペラな院長に任せています

例えば、外国人患者が来院しても、院長が対応してくれるなら自分が話す番は回ってきません。才能ではなく機会の有無が、話す量を決めていることがあります。

セルフ診断——あなたの英語が要る場面はどれか

では、あなたはどこで英語を話す必要があるのでしょう。その場面を1つ決めることが、学習のゴールを決める最初の一歩になります。

診断Q1:国際学会で、質疑応答まで自分の言葉で乗り切りたい→発表そのものはスライドの読み上げで乗り切れます。ですが質疑応答になった瞬間、状況が変わります。座ったまま、聴衆からの質問に自分の言葉で即座に答える必要があります。演題に関する専門知識はあるのに、それを英語でその場で返せません。ここが決まるかどうかで、その学会での存在感が変わることもあります。

診断Q2:外国人医師・研究者との症例検討や会議で、議論に入りたい→スライドが無い状況です。ホワイトボードの前か、テーブルを囲んでの症例検討。医師たちが次々と意見を言う中で、あなたも診断仮説を出したい、別の治療選択肢を提案したい。そこで「ちょっと待ってください」と通訳を呼ぶわけにはいきません。その場で考えながら話す力が要ります。

診断Q3:外国人患者の問診・説明を、通訳を待たずに自分でやりたい→診療の中で、最も「今この瞬間」が必要になる場面です。外国人患者が来院したとき、通訳の手配待ちで時間を使わずに、症状をしっかり聞いて治療方針を分かりやすく説明する流れを自分で作りたい。医療現場では時間が最も大事な資源だからです。

診断Q4:海外の研究室・大学とのやり取りに備えたい→研究留学やポスドク、あるいは国際共同研究のパートナーシップ。キャリアの次の段階では、英語での正式なやり取りが避けられません。メール文案なら日本で推敲できます。ですが実際の面接や打ち合わせは、その場での反応が要求されます。自分の医学的専門性を、英語で正確に伝える必要があります。

診断Q5:論文の査読対応・国際共同研究など、読み書きの先の連携がしたい→論文は読めるし、英文での投稿も経験がある。それでも査読対応や編集者との意見交換、共著者との協議のような「発信する側」の英語になると、途端に腰が重くなる。読む英語が得意だからこそ、話す・書く領域での完全さを求めたくなる場面です。

診断Q6:場面は決まっていないが、「読めるだけ」の状態を抜けたい→明確な場面が思いつかないなら、Q1〜Q5の中から自分に最も近い1つを選んでください。目標が決まらないままだと、英語学習は進みにくくなることがあります。

場面が決まったら、次は実例です。通訳のいる病院で働く内科医が、どうやって話す量を作ったのかを見ます。

実録——内科医の上原さんが、医療現場を教材に持ち込むまで

通訳のいる病院で「合わせて話す程度」だった医師が、どうやって医療分野の英語を身につけたのか。選択の一つひとつから、忙しい医師でも再現できる形が見えてきます。

出発点——目標を「話す環境」に置く

上原さんの日常は「論文は読む・話すのは通訳」という、話す必要が消えやすい環境でした。周りの医師たちの流暢さに驚いたことが、学び直しの起点です。

そこで置いた目標の言葉が、最初の分岐点になっています。

読解や聞き取りのスキルはある程度できていたのですが、英語を話すスピーキング能力がなかったので、『英語を話す環境に親しむ』ことを目標に今回セブ島留学を選びました

設定したゴールは「TOEIC 800点」でも「英検1級」でもありません。スコアではなく、環境との付き合い方を変えることが目標でした。

準備——「基礎は日本で」の事前学習

留学を決めた後、上原さんが何をしたかが次の違いを生みました。

個人的には、『絶対に』事前学習をしてからセブ島留学に来た方がいいと思います

その理由も、はっきり述べています。

フィリピン留学に来てから『日本でもできる基礎的な単語や文法の勉強』をするのは時間の無駄だと思うので、基礎的なことは日本で覚えてくることをお勧めします

医師は時間がありません。だからこそ学習を2つに分ける。日本にいる間に単語と文法を片付け、レッスンのある現地では一人ではできない「会話する」に時間を充てる

学習法そのものの下見も、準備の一部でした。

あとは、英語の勉強法はネットにも溢れているので、セブ島留学の前に必ず一度は見ておいた方がいいと思います

環境を選ぶ——社会人限定の現場

留学先の選択も、医師というキャリアの段階から判断していました。

1番は社会人限定の環境というのが決め手ですね。この歳になって、学生と一緒の環境で留学をしたくはなかったので、社会人限定の環境であるミライズ留学を選びました

学ぶ内容だけでなく、「誰と学ぶか」まで職業人の目線で選んでいます。この選択が、後の議論の質に直結します。

転機——医療分野を教材にリクエストする

上原さんが変わったのは、ここからです。

今回は医療分野に関しての授業リクエストをさせていただきました。先生方もそのリクエストについて一生懸命調べてくださって、おかげさまで医療分野での英語スキルが沢山身についたので、一生懸命調べてくださった先生方には本当に感謝をしています。

市販の教材を待つのではなく、自分の現場を教材に持ち込んだのです。

例えば、診療科の専門用語、症例の説明、論文の内容。自分がすでに知っている医学知識を英語に載せ替える学習に変えました。医学知識のない人が一から英単語を覚えるのとは違います。すでに持っている知識が語彙の足場になります。

議論の場で話す量を作る

教材を医療分野に固定した後、上原さんは何をしたか。

グループクラスでは難民問題など社会問題について議論をしていました。もちろん英語で議論を行うので、スピーキング能力もつきますし、新しい考え方や知識も身に付き、内容の濃いレッスンが受けられて大変満足をしています

医療分野のレッスンだけではなく、専門外の議論も重ねています。医学知識で支えられる場面だけでなく、考えながら話さざるを得ない場面も作ったということです。

話す相手も、その質を決めていました。

ここにくる留学生の皆様は知識が豊富ですし、レベルの高い大人達との会話を通して勉強になることが沢山ありました

相手が学生ではなく社会経験を持った職業人だったこと。それが、高い専門性を持つ医師でも新しい視点をもらえる環境になりました。

結果的に当初思っていた通り、目標に到達できたので凄く満足をしています

目標は「話す環境に親しむ」でした。点数ではなく環境を目標に置き、その環境を自分の手で作りきったことが、この体験のいちばん大事なところです。

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忙しい医師の学習設計——基礎は日本で・現場を持ち込む・議論で話す量を作る

上原さんの体験から、再現できる学習設計を3つに整理します。医師の時間の制約を前提にしたやり方です。

設計1. 基礎は日本で済ませる

医師の可処分時間は限られています。単語や文法は一人で学べますが、会話の往復は相手がいなければできません。

なぜこの順序が効くのか。希少な「相手のいる時間」を基礎に費やすのが、最も大きな浪費だからです。レッスンの1コマを文法ドリルに使えば、その間は話す訓練が一切進みません。

あなたがやるなら、こう分けてください。まず、移動時間を基礎学習に固定する。例えば通勤電車の中や患者さんの待ち時間に、録音教材で単語や表現をストックします。そして、相手のいる時間は話す練習だけに使うと決めます。

この分け方をすると、週3時間のレッスンが、週3時間まるごと発話訓練になります。同じ3時間でも、文法ドリルに半分を使えば発話は1時間半に減ります。時間を増やせない立場だからこそ、中身の配分で差がつきます。

ここで一つ加えておきます。発音は独学で直しにくいスキルです。製薬会社で医薬情報担当者として働く吉村さんは、マンツーマンの発音矯正レッスンでこう変わりました。

最初は相手の言っていることが70%程度しか理解できていない感覚でしたが、今では90%近くまで聞き取れるようになりました

正しい音を知ることが、聞き取りの土台になります。基礎として一度、自分がどこで通じていないのかを測る価値があります。

設計2. 自分の医療現場を教材に持ち込む

市販教材の英語は「いつか使うかもしれない英語」です。一方、あなたの診療科、症例、研究テーマは「明日使う英語」です。

なぜ効くのか。ゼロから覚えるのではなく、知っている内容を別の言語に乗せ替えるだけだからです。医学知識という足場があれば、英語はその上に積まれるものになります。

あなたがやるなら、3つのステップで進めてください。

1つ目は、自分の専門分野の頻出表現を20個書き出すこと。診療記録から取った表現は、市販教材には出てこない実物です。

2つ目は、読んだ論文の内容を1分で口頭要約すること。論文は読むだけでは英語になりません。読んだ内容を誰かに説明する行為が、定着につながります。

3つ目は、レッスンの相手に具体的にリクエストすること。例えば「心臓内科の症例検討で使える英語を教えてほしい」「査読対応のメール文を一緒に作りたい」。具体的なリクエストを受けた相手は、それに応えるために力を尽くします。

設計3. 議論の場で話す量を作る

診療で使う英語も学会の質疑応答も、すべて原稿のない英語です。相手の質問に応じて考えながら話す。この経験を積むには、「考えながら話す」量を増やすしかありません。

上原さんが話す量を作った場は、社会問題を英語で議論するグループクラスでした。議論の場では、相手の発言を聞く、考える、返す、という往復が連続して起こります。

環境科学の研究職として働く伊藤さんも、同じ経験をしています。

グループレッスンが特に楽しかったです。いろんな企業から来ている方と英語で話すことで、自分の英語力だけでなく、人とのつながりも深まりました

異なる背景の人との議論は、予測できない質問を受け、その場で対応する訓練になります。

獣医師の栗原さんは、毎週プレゼンテーションを実施しました。

英語力も伸びると思いますし、日本にいて英語でプレゼンをする経験ってなかなかないと思います

その場が機能したのは、返ってくるものがあったからです。

先生がその場でフィードバックしてくれて、毎回きちんと見てくれていてよかったです

定期的なプレゼンは、本番への練習ではありません。「考えながら話す」という行為そのものの本番です。読み上げの練習では話す力は育ちません。

あなたがやるなら、3つを組み立ててください。

1つ目は、週1回、原稿なしで話す場を固定すること。留学先のグループクラスでもよいですし、医局の勉強会での英語発表でも構いません。

2つ目は、症例プレゼンテーションを英語で1本作り、実際に口頭で回すこと。読み上げるのではなく、症例を説明する形式で、考えながら話します。

3つ目は、フィードバックが返ってくる相手を選ぶこと。間違いを指摘してくれる講師や同僚がいて初めて、その場での修正ができます。

継続の現実

ここまで読むと、次に浮かぶのは「では、いつ始めるのか」という問いです。

2週間の短期留学に踏み切った経営コンサルタントの方の言葉に、その答えがあります。仕事で忙しく、日本ではほとんど勉強できていなかった方です。

とりあえず1回無理やり時間を作って、英語だけの環境を作ろう、と思い立ったからです

忙しい職業人にとって、意志より先に「環境を作る」ほうが早いのです。「いつかやろう」という決意はなかなか実現しません。2週間でも、時間の確保から申し込みまで一気に環境を作ってしまうほうが、結果として続きます。

もう一つ、設計1で触れた「どこが通じていないかを測る」も、この環境作りの中に含めておくとよいところです。一人では見えない自分の発音の癖を知ることが、その後の自習の質を決めます。例えば、聞き返された単語をその場で書き留めておくだけでも、次に何を練習すべきかが具体的になります。

「読める医師」から「話せる医師」へ——記録と、キャリアの視界

最後に、話す量の設計を変えた人たちが、その後どこへ向かったのかを見ていきます。医療と研究の現場で働く人たちの、進行形の話です。

医療の現場から——キャリアの選択肢が広がった

内科医の上原さんは、通訳のいる病院で「合わせて話す程度」の英語から始まりました。医療分野を教材に持ち込む学習でスピーキングを身につけた今は、こう語っています。

まだ計画を立てておりませんが、今後は医学研究にも関わっていきたいと思っております。医療の研究分野では、アメリカが凄く進んでいるので、現在はアメリカへの留学も視野には入れており、いつかタイミングが合えばチャレンジをしてみたいですね

英語が「読むための道具」から、キャリアの選択肢を増やす道具に変わっています。

獣医師の栗原さんは、帰国して半年でスピーキングだけが落ちた状態から、3週間の集中でCEFRのレベルがB2からC1に上がるところまで戻しました。

初めはこれ何て言うんだっけって考えていたものが間髪を入れずに出てくるようになりました

来月からはアメリカに渡り、大学教員のポジションの面接を受ける予定です。

製薬・研究の現場から——仕事の景色が変わった

製薬会社でMRとして働く吉村さんは、変化の起点をはっきり言葉にしています。

英語を話すことへの怖さがなくなったのが、一番の収穫です

何が変わったのかも、具体的です。

間違いを恐れて話すことをためらっていましたが、MeRISEでの経験を通じて『間違えてもいいから、まずは伝えてみる』という姿勢を身につけました

論文を読むだけだった仕事は、いま様変わりしました。

現在は英語を使う部署に配属しており、日々のミーティングがすべて英語です

その先も見えています。

これからアメリカに仕事で行く予定もあるので、自分にとってはまさに『世界への扉が開いた』と実感しています

環境科学の研究職の伊藤さんは、開発援助の仕事でジブチやネパールに赴き、英語で調整する場面を数多く経験してきた方です。それでも課題は自信のなさでした。

一番の課題は自信のなさでした。語学留学のような機会もなかったので、話す内容が相手に失礼ではないか常に気を使いながら話していて。気持ちよくコミュニケーションできないもどかしさを感じていました

いまは違います。

一番の変化は“自信”ですね。会話に対する不安や遠慮が減って、英語を話すこと自体に怖さがなくなりました

話し方そのものも変わりました。

以前は頭の中で文章を組み立ててから話していましたが、今は直感的に自然に話せるようになったと感じています

進行の途中にいる人たち

クリニックに勤めるN・Kさんは、いままさに進行の途中にいます。起点は日常の悔しさでした。

東京を歩いていると外国人に、『Can you speak English?』って英語で話しかけられる事が多いんですよ

そのときの反応も、正直に語っています。

その時は『喋れない!』と日本語で返事をしています(笑)

そして、こう続けます。

そういう経験が悔しかった

目標は、外国人の患者さんが来た際に英語で対応できるところまで上達すること。英語がペラペラな院長に任せる側から、自分で話す側へ向かっている途中です。

変化の始まり方は、医療の現場に限りません。プログラマー坂谷さんは、英語の資料を開けた瞬間に閉じていた状態から、こう変わりました。

英語への抵抗がなくなって少なからず読解力もついたので読むようになりましたね

最初に消えるのは「抵抗」で、その先に話す量が積み上がっていきます。

ここに並べた誰も、「ペラペラになった」とは言っていません。全員が、自分の現場とキャリアに向かって進んでいる途中です。出発点は同じ「論文は読める・会話は沈黙」でした。

まとめ|医師の英語は、知識の追加ではなく「話す量の設計」で変わる

「論文は読めるのに話せない」という悩みは、才能の差でも努力不足でもありません。論文・通訳・日本語で回る職場——読む英語だけで仕事が成立する環境が、話す機会を消しています。

では、今日から何をするか。次の4つです。

  1. 自分が英語を話す必要のある場面を1つに決める。学会の質疑応答か、症例検討の議論か、患者さんとの対話か、研究者との連携か。場面が決まれば、必要な表現も学習の深さも定まります。
  2. 文法や単語といった基礎は、日本で一人でできる時間に回す。通勤時間や休診時間の積み重ねで十分です。相手がいる時間を基礎学習に費やすのが、最も効率の悪い使い方になります。
  3. 自分の診療科や研究テーマを教材に持ち込む。日常英会話ではなく、実際に使う専門用語や症例、論文の内容を学習の中心に据えます。すでに持っている医学知識が足場になります。
  4. 週に1回、原稿に頼らず話す場を固定する。文字で読むだけでは気づかない言い足りなさが見え、フィードバックを返す相手がいれば、その場で修正が効きます。

内科医の上原さんは、専属の通訳がいる病院で「合わせて話す程度」から始まりました。基礎を日本で終わらせ、医療分野を教材にするようレッスンで具体的に伝え、議論の場で話す量を作った結果、いまはアメリカの医学研究への留学も視野に入れています。英語は、読むための道具からキャリアの選択肢を広げる道具に変わりました。

この記事に登場した人は、獣医師も、製薬会社の担当者も、研究職の方も、誰も「ペラペラになった」とは言っていません。全員が、自分の現場とキャリアに向かって進んでいる途中です。

完成を待つ必要はありません。まず、自分の英語が要る場面を1つ決めるところから始めてください。

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