英語の母音の発音|16個を日本語の5つで代用すると、どこがずれるか
`fan` と `fun` を、同じ「ファン」で読んでいた。相手に聞き返されて、そこで初めて別の音だと知った。カタカナで書けば同じなのだから、区別のしようがなかった。——そんな経験はないでしょうか。
このとき、こう思うはずです。「単語は知っている。聞けば分かる。なのに、なぜ通じないのか」と。知らないのは単語ではありません。その単語が実際に出てくるときの音です。
英語の母音は、短母音7つ・長母音4つ・複合母音5つの、合わせて16個あります。日本語の母音は「ア・イ・ウ・エ・オ」の5つです。
ここで何が起きているかというと、5個しかない器に、16個の音を全部拾おうとしている状態です。器が5個のままだと、入りきらない音は近いものに寄せられます。寄せた時点で、英語の側では別の音になっています。いちばん分かりやすいのが「ア」です。日本語では「ア」と言えば音は1つですが、英語では「ア」に聞こえる音だけで4つあります。全部違う音です。 器が1つしかないので、4つとも「ア」に聞こえ、4つとも「ア」で出すことになります。
この記事では、自分がいまどの日本語の音で代用しているかを判定したうえで、詰まっているところの分け方をお伝えします。書いているのは、英語コーチングスクール・ミライズです。発音を専門に教えているシャベリッシュで、実際に教えている内容をもとにしています。
母音の数が違うから、代用すると別の単語になる
英語を「難しい」と感じる原因のひとつが、この母音の多さです。
日本語では、母音が5つしかありません。だから日本語話者は、英語を聞いても話しても、無意識に手持ちの5つのどれかに寄せます。近い音に寄せているつもりでも、英語の側では別の音として区別されています。
`fan`(扇風機)と `fun`(面白い)は、母音の発音だけで意味が変わる組み合わせです。子音は同じで、変わるのは真ん中の1音だけ。ここを同じ「ア」で出すと、2つの単語が同じ音になります。
会議で `fun` と言ったつもりが `fan` に聞こえていた、という食い違いは、文脈で流されて気づかないまま残ります。相手が聞き返してくれたときだけ、表に出ます。
発音記号の読み方とは、別の話
母音の記号そのものの読み方については、英語の発音記号|読み方の規則と、覚えるだけでは変わらない理由という記事でお伝えしています。あちらは記号を見て音を特定する話です。
この記事は、その先を扱います。特定した音を、口でどう作り分けるかです。記号が読めても、`æ` と `ʌ` を口で別々に出せるかは別の問題です。
あなたは、どの日本語の音で代用しているか
まず、自分がどこで詰まっているかを決めます。英語の母音16個は、日本語のどの音に寄せられているかで、いくつかの束に分かれます。
| 日本語で代用している音 | 英語側にある音 | 起きること |
|---|---|---|
| ア | `æ`(アとエの中間)/`ʌ`(アに近い)/`ɑ`(アとオの中間)/`ǝ`(弱く曖昧な音) | `fan` `fun` `fond` が同じに聞こえる |
| イ | `i`(イとエの間)/`i:`(イに近い) | `ship` と `sheep` が同じになる |
| ウ | `u`(オ寄りのウ)/`u:`(ウに近い) | `book` の母音が日本語の「ウ」になる |
| どれにも当てはまらない | `ǝ:r` | `girl` `work` の音が作れない |
いちばん人数が多いのは、いちばん上の「ア」の行です。 日本語の「ア」1つに、英語では4つの音がぶら下がっています。ここを分けるだけで、通じ方が変わります。
4つ目の `ǝ` は、正確には日本語のどの母音にも相当しません。強く読まない位置に現れる曖昧な音で、日本語の耳では「ア」に寄せて聞こえます。だから実際には、「ア」だと思っている器の中に4つが入っていることになります。
この表に「エ」が入っていないのには理由があります。`e` は日本語の「エ」に近い音で、寄せてもほとんどずれません。軽く顎を下げながら口を開ければ出ます。日本語の5つのうち、そのまま使えるのはここだけだと考えておくと、練習する範囲が絞れます。
記号が読めても、口が作れているかは別
ここが、この記事でお伝えしたいことです。母音の違いは、知識としては数分で分かります。ただ、分かったことと、出せることは別です。
`æ` は「ア」と「エ」の中間、と読めば理解できます。ただ、実際にその口の形になっているかは、自分では確かめられません。口の中は見えないからです。
シャベリッシュには、練習の前に発音診断テストという工程があります。16個のうち自分がどれを出せていないのかを、先に絞り込むためです。そこから先は、講師がその音を実際に出して見せ、受講者が同じ口の形をなぞります。母音の作り分けは、ここで最初に扱う部分です。
教材は、ミライズが運営する社会人向けの留学サービス「ミライズ留学」で延べ1万人に届けてきた発音レッスンから起こしたものです。
母音を分けたところから変わった人たち
母音を扱うと何が起きるのかは、受講した方の言葉に残っています。以下の3人は、ミライズで英語を学んだ方々です。引用はいずれも、公開されている体験談の本文からそのまま取っています。
近藤拓矢さんは、レッスンで扱っている中身をこう書いています。
あとは、それぞれのアルファベットの発音も習っていて、Aの発音も三種類くらいあったりして、母音と子音を組み合わせてきちんとした発音ができるようにしています。
「Aの発音も三種類くらい」。これが先ほどの1行目です。日本語の「ア」に寄せていた音が、実際には複数あったと気づく場面です。
ニューヨークで看護師として働く吉田さんは、指摘された箇所を具体的に書いています。
「母音の後のR」が正しく発音できていないと言われたんです。
自分では気づけなかった箇所が、外から見ると1箇所に特定できる。母音のどこがずれているかは、こういう形で言葉になります。
製薬会社で働く吉村さんは、母音そのものが対象になったと書いています。
アメリカ英語の母音の発音は、日本ではあまり意識しない部分でしたが、そういった細かい点を徹底的に矯正してもらえました。
「日本ではあまり意識しない部分」というのが実際のところです。意識していないので、間違えている自覚も生まれません。
「ア」に集まっている4つを分ける
いちばん人数が多いところから始めます。日本語の「ア」で読んでいる音です。
手順1. 4つの口の形を、続けて作ってみる
4つとも、口の開き方と唇の形が違います。
- `æ` … 「ア」と「エ」の中間。軽く顎を下げて唇を左右に広げ、音を喉の奥で響かせる(`apple` `chance` `afternoon`)
- `ʌ` … 日本語の「ア」に近い。口を大きく開けすぎず、軽く顎を下げて短くはっきり出す(`fun` `but` `come`)
- `ɑ` … 「ア」と「オ」の中間。口を大きく開け、唇を少し丸める(`popular` `not`)
- `ǝ` … 強く読まない位置に出る曖昧な音。はっきり出そうとせず、弱く短く置く(`about` の最初、`afternoon` の最後)
4つの違いは、唇です。
| 唇と顎 | |
|---|---|
| `æ`(アとエの中間) | 唇を左右に広げる |
| `ɑ`(アとオの中間) | 唇を丸める・口を大きく開ける |
| `ʌ`(アに近い) | どちらもしない・大きく開けない |
| `ǝ`(弱く曖昧な音) | 力を入れない・短く置く |
4つを続けて出すと、口の形が動きます。動かなければ、まだ同じ音を4回出しています。
手順2. 最小のペアで確かめる
4つを別々に練習するより、入れ替えると意味が変わる単語を並べるほうが早く分かります。
`fan` と `fun` は、そのための組み合わせです。子音は同じで、母音だけが違います。続けて言って、自分の口が2回とも同じ形なら、区別できていません。
手順3. 録音して、単語ではなく口を確認する
録音を聞くとき、単語として聞くと「合っている気がする」で終わります。顎が下がったか、唇が横に広がったか、丸まったかを思い出しながら聞くと、判断できます。
「イ」「ウ」と、日本語に無い音
残りは、長さで変わると思われがちな音と、代用のしようがない音です。
手順1. 「イ」の2つは、長さより先に音が違う
長母音は `i:` `u:` `ɔ:` `ǝ:r` の4つです。「伸ばす音」と覚えると、日本語の長音とまざります。
`i` と `i:` を見ると、違いが長さだけではないことが分かります。
- `i` … 日本語の「イ」と「エ」の間のような音。唇を軽く横に広げ、顎も軽く下げる。短めに出す
- `i:` … 日本語の「イ」に近い音。唇を横に引っ張るように開き、`i` より長めに出す
短いほうは「イ」ではありません。 「イ」と「エ」の間です。ここを日本語の「イ」で出していると、長さを変えても2つが同じ音のまま伸び縮みするだけになります。
`ship` と `sheep` を続けて言って、唇の張り方が変わるかどうかを確認します。変わらなければ、長さだけで区別しようとしています。
手順2. 「ウ」の2つは、片方が「オ」寄り
`u` と `u:` も同じ構造です。
- `u` … 少し「オ」に近い「ウ」。日本語の「オ」の形をイメージしながら唇を丸める。短めに出す
- `u:` … 日本語の「ウ」に近い音。唇をしっかり丸めて前に突き出す。`u` より長め
短いほうが「オ」寄りだと知らないと、`book` の母音を日本語の「ウ」で出すことになります。唇を丸めるか、突き出すか。ここが分かれ目です。
なお `ɔ:` は、少し「ア」に近い「オ」のような音です。日本語の「オ」より唇を縦に大きく開き、舌の付け根に少し力を入れて、顎を固定したまま出します。
手順3. `ǝ:r` は、舌を喉の奥へスライドさせる
長母音の4つ目 `ǝ:r` は、`girl` `learn` `work` に入っている音です。日本語にない発音なので、苦手にしている方が多い音でもあります。
出し方はこうです。
- 舌先を少し丸めてスプーン状にする
- 舌の側面を上顎に沿わせながら、喉の奥の方向へスライドさせる
- 口は少し開いて、アヒル口のような形にする
- 喉の奥で響かせる
先ほど吉田さんが指摘されていた「母音の後のR」は、ここに当たります。日本語に無い動きなので、知らないまま出すことはできません。 逆に、動かし方さえ分かれば、練習で届く範囲にあります。
手順4. 複合母音は、2つの音の移動として出す
複合母音は `ai` `aʊ` `ei` `ɔi` `oʊ` の5つです。名前のとおり、1つの音ではなく、2つの音のあいだを移動します。
`ai`(`time` `buy` `high`)は、日本語で書くと「アーェ」に近い音です。強く長めの「ア」から、徐々に顎を閉じて、弱く短い音へ移っていきます。 `aʊ`(`about` `how` `outside`)も同じ作りで、「アーゥ」のように流れます。
移動しないと、日本語の「アイ」「エイ」のように2音に割れます。口の形が途中で動き続けているかが確認点になります。
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16個を覚えるところから始めなくて構いません。自分が代用している音から1つ選びます。
- `fan` と `fun` を続けて録音する … 口の形が2回とも同じなら、「ア」に集まっている3つが分かれていない
- `ship` と `sheep` を続けて録音する … 唇の張り方が変わらなければ、長さだけで区別しようとしている
- 仕事で毎日言う単語を1つ選び、母音だけを確認する … 社名、製品名、会議で出る用語から選ぶ
3つ全部をやる必要はありません。1つ目で口が動かなかった方は、そこだけで足ります。
まとめ|英語の母音は16個。日本語の5つには収まらない
英語の母音は、短母音7つ・長母音4つ・複合母音5つの計16個です。日本語は5つ。5個の器に16個を拾おうとしているので、入りきらない音は近いものに寄せられます。
いちばん人数が多いのは、日本語の「ア」に `æ` `ʌ` `ɑ` `ǝ` の4つを寄せている状態です。`fan` と `fun` が同じ音になっていたら、ここに当たります。
分け方は口の形です。 唇を横に広げるか、丸めるか、どちらもしないか、力を入れないか。4つを続けて出したときに口が動けば、分かれています。
覚えるのは16個全部ではなく、自分が寄せている束だけで構いません。
