英語の交渉ができないのはフレーズ不足ではない|通訳なしで伝えられるようになった人の体験談
価格の話になった瞬間、英語が追いつかなくなる。相手の提示に「それは難しい」と言いたいのに、出てくるのは曖昧な相づちだけ。結局こちらが譲るか、通訳や英語のできる同僚に代わってもらう。英語の交渉の悩みは、フレーズを知らないことではなく、その場で主導権を握れないことではないでしょうか。
「英語 交渉」で検索すると、交渉フレーズ集と例文が並びます。Let me confirm、Can I get back to you。どれも正しい表現です。けれども、フレーズを覚えても交渉の場で言い返せません。その理由に答えている記事は、ほとんど見当たりません。
では、仕事の英語はどれくらい難しいと感じられているのでしょうか。AI英会話アプリを開発・運営する株式会社スピークバディが、ビジネス英語の学習経験・意向がある20〜59歳の国内在住者を対象に実施したビジネス英語の学習に関する調査(n=1,370、2026年3月)によると、ビジネス英語を「非常に難しい」「やや難しい」と答えた人は合わせて88.8%でした。ビジネス英語に関心がある層に限った調査なので、働く人全体の割合ではありません。それでも、9割近くが難しいと答えている中で、交渉は「その場で言い返す」ことまで求められる場面です。
実際に、その状態から抜けた人がいます。映画制作の現場で働く佐野さんは、かつて海外クルーへの要件伝達を通訳に頼っていました。医療現場で働く看護師の吉田さんも同じ課題を持ちながら、発音の正確さに向き合い続けています。経営者の北島さんも、かつて「発音がめちゃくちゃだった」と振り返りながら、今はスクリプト作成と発音練習を軸に、自信を持って話せるようになっています。全員が掲げたのが「通訳に頼らず自分の言葉で伝えたい」という目標です。長年のコンプレックスだった発音に正面から向き合い、職場で自分の口から伝える側へ回り始めています。
3人が変えたのは、フレーズの量ではありませんでした。いずれもミライズが運営している英語コーチングサービス シャベリッシュの受講者です。ミライズの公式サイトには200件以上の体験談が本人の言葉のまま公開されており、交渉や折衝の現場で英語を使った人の声も残っています。この記事では、その言葉から「英語の交渉で主導権を握るには何が要るのか」を整理します。
交渉で負けるのはフレーズ不足ではなく、リード権を失う3つの理由
英語の交渉が崩れるのは、フレーズを知らないからではありません。主導権を失う場面には、共通する3つの原因があります。順に見ていきましょう。
正確に伝わらない. 音の誤解が交渉を壊す
交渉の前提は「相手に正確に伝わること」ですが、この前提が崩れている人が少なくありません。
映画制作の現場で働く佐野さんは、世界中から集まる海外クルーと日々やり取りしています。立場は製作側、つまり指示を出す側です。それでも、専門用語や微妙なニュアンスを伝える場面では、間違った発音が行き違いを生まないよう、かなり気を張っていたといいます。
相手が部下や立場の下の人であれば、多少の発音のずれでも「なんとなく」で済むこともあります。しかし交渉では、指示が曖昧に伝わると、契約の中身から納期まで変わってしまいます。
同じことを書いているのが吉田さんです。アメリカで看護師として働く吉田さんは「看護師である以上、診断結果や薬の名称など、発音を間違えてミスコミュニケーションに繋がってはいけないシーンは多々あります」と述べています。医療の現場では、音のずれが患者の治療に関わります。交渉でも、伝達のずれが許されない場面ほど、音の正確さが前提になります。
吉田さんは「アクセントが1つ違うだけでまったく伝わらないことがあった」とも書いています。相手に何度も聞き直させると、そのたびに話の進み方は相手のペースになります。
とっさに言い返せない. 沈黙が譲歩になる
交渉では、沈黙は相手に「譲歩のサイン」として受け取られます。
兒玉さんは動画制作の仕事で海外ロケに出かけます。シンガポールでのタクシーの一件は、交渉の場面そのものを避けた例です。
実は昨年の夏にシンガポールへ仕事で行った時、経費のためにタクシーの運転手さんから領収書をもらいたかったのですが、もらいそこねてしまって。でもタクシー会社に英語で電話する勇気がもなかったので、最終的にはホテルの人にもgoogle翻訳で泣きついて、タクシー会社に電話してもらい領収書を発行していただけました
金額は大きくありません。電話を1本かけられるかどうかの差です。ただ、こうした小さな場面を避け続けると、自分で言う経験が増えないまま次の場面が来ます。
その場で返答できないと、相手は「この人は受け入れるのだろう」と判断して次に進みます。なお兒玉さんは、学習を始めた後に「聞き取ってみよう」という姿勢に変わっています(その変化は最終章で紹介します)。
主導権を渡している. 通訳・同僚・相手のペース
交渉で最も多く起きるのは、自分以外の誰かに主導権を預けてしまうパターンです。
佐野さんは、こう書いています。「そのため今まで海外クルーに要件を伝える際、発音に自信がなくて通訳の方に頼む場面も多々ありました」。
通訳を挟むと、相手とのやり取りの間に解釈や言い換えが入ります。元の言葉のニュアンスは伝わりにくくなります。相手からは「この人は通訳が必要な人だ」という見え方にもなります。
佐野さんは当時をこう振り返っています。「日常英会話は問題なくできるのに、発音が原因で英語が伝わらない経験をしたからです」。フレーズを知らなかったのではなく、音に自信がなかったから通訳に回していた、ということです。
フレーズは「何を言うか」を形にする道具です。交渉で起きているのは(1)音の誤解 ——聞き直しが増え、信頼を失う(2)沈黙 ——譲歩のシグナルになり、条件を落とす(3)主導権の外部化 ——決定権を相手や第三者に渡してしまう。この3つはどれも、フレーズ暗記では解決しません。
では、自分の交渉はどこで主導権を失っているのか。次章の診断で特定します。
あなたの交渉はどこで崩れるか——場面別セルフ診断
交渉と聞くと大きな商談を想像しがちですが、実際のビジネスでは、交渉は「特別な英語」ではなく、小さな場面の連続です。値段を確認する、納期に反論する、条件を1つ通す、電話で依頼する。こうした日常的な場面の1つひとつが交渉の場面になります。そして、どの場面で崩れるかは人によって大きく違います。
事務職として働く井高さんは、職場での英語の場面で「いつも答えられずにもどかしい思いをしていた」と話しています。隣にいた同じくらいの年代の女性が英語で受け答えしているのを見て、「悔しくて英会話を習いたいと思うようになりました」と語っています。
あなたの交渉が崩れるのはここ. 5つの場面から診断する
では、あなたの交渉はどの場面で主導権を失っているのか。以下の5つのパターンから、自分に当てはまるものを選んでください。複数選んでも大丈夫です。
診断Q1:相手の提示条件を聞き取りきれず、確認できないまま話が進む
相手が金額や納期を説明しているのに、半分くらいしか理解できません。でも、わかったふりをしたまま進めてしまい、後から「聞いていなかった」「予想と違う」という状況になります。特に数字や専門用語が出た瞬間、音が追いつかなくなるパターンが多い。交渉の第一歩は「正確に聞く」ことです。聞き取れないまま「了解です」と返事をすれば、その後の交渉は最初から崩れています。この場面で崩れる場合、問題は音の聞き取りと確認の勇気です。確認できない不安感から、相手の言葉を鵜呑みにしてしまうケースも多くあります。
診断Q2:反論や条件の主張を、頭の中で組み立てているうちに話題が変わる
自分が言いたいことはわかっているのに、英語で言おうとすると時間がかかります。その間に相手が次の話題に移ってしまい、言いたいことが言えないまま終わります。価格交渉で「その金額は厳しい」と言いたくても、言い方を考えている間に相手は次の条件を説明し始める。スピード感のある交渉の場では、沈黙が譲歩のサインになります。相手は「同意した」と受け取り、次に進む。この場面で崩れる場合、問題は場面ごとの準備不足です。本番で即興で話す英語は、準備されていない英語ほど遅くなる傾向があります。
診断Q3:言いたい内容はあるのに、発音や伝わるかが不安で短く済ませてしまう
「これを言ったら発音が悪いと笑われるかな」「正確に伝わるか自信がない」という不安が強く、つい短い返答で終わらせてしまいます。本当は「その価格では、契約できません。理由は3つあります」と説明したいのに、「ちょっと難しいです」の一言で済ます。その結果、交渉の核心が伝わらず、相手は「検討中」「迷っている」と誤解する。音への不安が、ビジネスの機会を失わせている。この場面で崩れる場合、問題は音の自信不足です。多くの場合、実際の発音は「大丈夫」なのに、心理的な不安が主張を短くさせています。
診断Q4:電話・対面の交渉場面そのものを避けて、メールや同僚・通訳に回す
小さな交渉でもいいので、メールで済ませようとする。または、英語ができる同僚や通訳に代わってもらう。その結果、交渉の経験が増えず、次の機会でもまた避けてしまう。これは負の連鎖です。避けるたびに不安は大きくなり、小さな場面であっても「難しい」と感じるようになります。この場面で崩れる場合、問題は練習の不足と恐怖心です。実は、最初の数回の小さな成功が、その後の交渉を大きく変えます。
診断Q5:雑談や関係作りの段階で輪に入れず、交渉の席で「初対面の人」になっている
メールやZoomなどのオンラインでの打ち合わせでは誰とでも話せるのに、交渉の本番では周囲に取り残される感覚がある。相手と信頼を作る段階を飛ばしたまま交渉に入ると、こちらのセリフも説得力を持ちにくくなります。「では条件を確認したいのですが」と切り出しても、相手には「この人は何も知らないな」という印象になり、交渉が成立しない。交渉は要件の説明ではなく、相手との関係の延長線上にあります。この場面で崩れる場合、問題は事前の関係作りです。事前のやり取りがないまま重要な交渉に入ると、話を進めるのに時間がかかります。
診断結果の読み方
複数当てはまることも珍しくありません。その場合は、当てはまった順番に取り組むのがお勧めです。
Q1/Q3に当てはまる場合:音の問題が交渉の足を引っ張っています。「聞き取る」「伝わる」という前提が揺らいでいるため、その部分から改善が必要です。これは、フレーズを増やすことでは解決しません。正確に聞き取れるようにすること、自分の言葉が正確に伝わるようにすることが先です。
Q2に当てはまる場合:場面ごとの準備が不足しています。次の交渉で言う内容を事前にシミュレーションし、反論案も用意しておくことで改善できます。交渉は本番で考えるのではなく、本番前に考え切ったものを話す場面です。
Q4に当てはまる場合:小さな交渉から自分で向き合う練習が必要です。完璧を目指さず、次の「電話で依頼する」「条件を1つ通す」という小さな場面から、自分の言葉で始めます。
Q5に当てはまる場合:交渉本番の前に、相手との信頼作りに時間を使ってください。1回のZoomで全部を決めようとせず、複数回の接触で関係を作ったうえで、重要な交渉に入ることで、主導権は大きく変わります。雑談の段階での発言が、後の交渉で効いてきます。
診断で自分の崩れる場面が見えたら、その場面に特化した準備をすることで、交渉はしっかり立て直せます。あなたがどの場面で主導権を失っているかが明確になれば、改善の焦点は定まり、短期間での変化も可能です。
診断で場面が見えたら、次は実例です。通訳に頼っていた佐野さんが、フレーズではなく音の練習を選んだ理由を見ていきます。
実録——通訳に頼っていた佐野さんが、自分で交渉するまで
映画制作の現場で毎日、海外クルーとコミュニケーションを取る佐野さん。撮影のテーマや専門的なニュアンスを正確に伝える必要があります。けれども、発音に自信がなかったため、その重要な場面では通訳に頼ることが多くありました。
撮影テーマによっては専門的な用語や微妙なニュアンスの違いを伝えなければいけない場面も多く、間違った発音がコミュニケーションの行き違いを生んでしまわないようにかなり気を張っています。そのため今まで海外クルーに要件を伝える際、発音に自信がなくて通訳の方に頼む場面も多々ありました
転機. 長年のコンプレックスに向き合う
通訳に頼るたびに、交渉の場で話すのは佐野さん自身ではなくなります。佐野さんはこう書いています。
『せっかく日本まで撮影に来てもらっているのに意思疎通ができず不快な想いをしてほしくない』『自分で細かなニュアンスまで伝えたい!』という気持ちが強く、この2か月で発音を克服しようと思い受講しました
2か月で発音を克服する——その目標を支えたのは、現場での具体的な必要性でした。ただし、佐野さんは漠然と発音を直すのではなく、自分が最も苦手な領域に向き合うことにしました。
変化. 音の正確さが主導権を取り戻す
佐野さんが最初に気づいたのは、自分の口の動きの癖です。
「英語を話すときの口の動きってこんなに違うんだ!とおどろきました。」。発音記号は知っていて、Rの発音は舌を丸めるといった一般的なノウハウも心得ていたつもりでも、実際の発声の反復練習は別物だったといいます。普段使わない口周りの筋肉で練習し、慣れないうちは筋肉痛になったほど。カタカナ発音や、1単語ずつぶつ切りに読む癖——「自分の発音の癖を客観的に指摘してもらえたので、実際に職場で英語を話す際も指摘してもらった部分を意識して話すようになりました。」
その中でも、佐野さんが集中的に練習したのは「リンキング」という現象です。2つの単語が繋がるとき、最初の単語の語尾の子音が、次の単語の語頭の母音とつながって発音される。日本語には存在しないルールです。
私は2つの音が繋がって発音される『リンキング』が苦手でした。リンキングとは通常は発音しない語尾の子音が、次の語頭の母音とつながって発音される日本語にはない法則です。毎朝1時間を確保して練習しました
毎朝1時間。その継続を支えたのは、明確な訓練サイクルでした。
毎週1回、日本人トレーナーの方にTEDトークの音読音声を提出するのですが、レッスンで学んだ発音をしっかりインプットして、その提出課題でアウトプットをするというサイクルがあったのでモチベーションを保ちながら継続できました
インプット(レッスン)→ アウトプット(TED音読提出)→ フィードバック(トレーナーの指摘)。この循環が、2か月間、毎朝の練習を支えました。
そして、変化が起きました。
友人や仕事場で『発音良くなったね!』と褒められたことですね。レッスン中に指摘されたことを意識して話すようになったので、以前に比べて伝わる英語を話せるようになったと思います。また、レッスンを通して音の繋がりを理解できたのでリスニング力が大幅にアップしました。受講前よりも格段に英語の聞き取りが容易になったのは嬉しかったです
そして、変化は日々の習慣に現れました。受講前にはなかった「自分の発音を聴き比べる」習慣が生まれたのです。通訳に頼らず自分の言葉で伝えたい——その目標に向かって、佐野さんは自分の音を自分で確かめながら、職場で伝える側に回り始めています。完成宣言ではなく進行形。それでも、主導権が自分の手に戻り始めていることは確かです。
なぜ佐野さんのアプローチが効いたのか
交渉の主導権は「何を言うか」より先に、「自分の言葉が確実に伝わる」という前提で成り立ちます。相手が「聞き返さないといけない」と感じたら、その瞬間にあなたは優位性を失います。逆に、自分の主張が「一度で正確に伝わる」と相手が確信したら、その交渉はあなたのペースで進みます。
佐野さんが通訳を必要としなくなったのは、フレーズを覚えたからではなく、音の正確さが担保されたからです。リンキングを含む、正確な発音が。そこに、主導権の回収がありました。
あなたがやるなら
明日の交渉に、この道筋を組み込むなら、3つのステップです。
ステップ1: 通訳・同僚・メールに回している場面を1つ書き出す
電話交渉を避け、金額交渉は同僚に代わってもらい、難しい説明はメールで済ませている。そういう場面があなたの交渉の中にもあるはずなので、まずその場面を1つ選んでください。
ステップ2: その場面で言う内容を、3文の英語にする
『予算は〇〇万円です。それ以上は難しい。代わりに納期を2週間延ばしてもらえますか』——こういう風に、3文程度にまとめます。長い主張は、交渉の場で崩れます。
ステップ3: 声に出して録音し、伝わる音になっているか確認してから、次の機会に自分で言う
文字で準備しただけでは、本番で出てきません。音で確認してください。「その発音で、相手は理解するだろうか」と。その確信が持てたら、次の交渉で、自分で言ってみてください。
通訳を使わず、同僚に代わってもらわず、自分で。小さな交渉から、その習慣を作ります。
佐野さんが準備を形にしたのは、スライドをプリントし、難しい発音にはカタカナで注釈をつけることからです。
復習がやりやすいようにレッスンで使用したスライドをプリントし、苦手部分は反復練習をするように心がけていました。どうしても発音が難しい場合はカタカナでふりがなを打って発音練習をしていましたね
交渉の場で「出てこない」状態を作らないために、前夜に準備を形にしておくのです。そして、その準備を何度も繰り返すことで、習慣が生まれます。
「受講前にはなかった自分の発音を聴き比べる習慣ができたことは、これからの英語学習にも大きく役立ってくると思います」
習慣は、小さな交渉を重ねることで、身につきます。通訳に回していた場面を、自分で言ってみる。その繰り返しが、次の交渉に自信をもたらす。
佐野さんがやったのは、準備と音の練習でした。では、明日の交渉に間に合う準備は何か。次の章で整理します。
明日の交渉に間に合わせる準備——場面の教材化・短い主張・確認の技術
交渉は場面の連続です。値段確認から始まり、納期に反論し、条件を1つ通していく。その過程で、フレーズ集の表現と実際の場面のずれに気づきます。汎用フレーズを覚えるより、自分の次の交渉を教材にするほうが、早く準備できます。
準備1. 自分の交渉場面を教材にする
IT・海外戦略のYさんは「プレゼンテーションがある時はそのシミュレーションも先生とできて、アドバイスやフィードバックをしてもらえます」と書いています。本番の場面そのものを、事前に一緒に練習しているということです。
交渉で使う英語は、自分の案件の英語です。「How much is it?」のような汎用フレーズより、直近の交渉案件そのものを練習台にするほうが、本番の言葉に近くなります。業界用語も、相手の反論も、事前に想定できます。
Yさんは「仕事で使う、英語の資料の作成を一緒に手伝ってもらっています。例えば、日本語のパンフレットを英語に翻訳するのをチェックして、添削してもらったりしています」とも書いています。教材が仕事の実物だということです。「基本的な英会話を学ぶことも必要だと思いますけど、実際、仕事の時に使う英語になると日常的なものとは違ったりするので、レッスン内容をカスタマイズできてとても助かっています」とも述べています。
あなたがやるなら:
- 次の交渉の論点を3つ書き出す。値段・納期・品質管理など、本番で押さえるべき点を明記する
- 相手の想定反応と自分の返しを英語でセットで用意する。「これなら相手はこう言うだろう」という予測を数パターン作る
- 本番前に一度、トレーナーか信頼できる同僚に聞いてもらい、音声で確認する。Yさんのように実物の資料を添削してもらうと、本番で使う言葉のまま確認できる
- 音声で確認した返しを、本番の1日前までに一度は声に出して言い切る。「独りよがり」はこの時点で防ぐ
準備2. 主張は短く区切って先に作る
経営者の北島さんは、かつて「発音もめちゃくちゃだったので言いたいことが伝わらないことが多かった」と書いています。その後、トレーナーと自分で作成した英文のスクリプトを添削し、レッスンで発音も練習しました。いまは「仕事に関する独自の英語スクリプトのおかげで、いつでもどこでも誰とでも自信をもって話せます」と書いています。
スクリプトは、事前に作っておく短い主張です。本番で長い文を組み立てようとすると、相手の反論に焦って音がくずれます。3文以内の主張を先に用意しておけば、緊張していても同じことを言えます。
北島さんもここに気づいていました。「日本人トレーナーの方が最低限押さえるポイントをしっかり明記してくださった」といいます。経営者として忙しい中でも、押さえる部分を絞ることで、短い主張を正確に言い切れるようになりました。「部分的に意識して発音をするだけでもかなりネイティブの発音に近づけることに感動しました」とも語っています。短い主張は完璧を目指すものではなく、本当に要る部分だけを先に決めておくやり方です。
あなたがやるなら:
- 主張を「結論+理由+条件」の3文型で用意する。例えば、値引き交渉なら『当社の予算では○○ドルが限度です。これは仕様維持の最低条件で、今後の発注につながります』という3文の型を作っておく
- 値引き要求・納期短縮・品質指定など、頻出場面ごとに1セット作る。パターンが多いほど、本番での柔軟性が生まれる
- 各場面ごとに「譲れない1ポイント」と「フレキシブルに対応する2ポイント」を区分する。北島さんのように「最低限ここだけ」という絞り込みが、本番で言い切れる力になる
準備3. 聞き取れない時の確認をためらわない
電線メーカー購買の廣井さんは、購買の交渉を担当しています。「英語で海外のサプライヤーさんとのメールや電話でのやり取り、直接商談する際の会話のやり取りのなどを集中して勉強させてもらいました」と書いていて、やり取りの型そのものを練習しています。
交渉で危ないのは、聞き取れないまま合意することです。金額を聞き間違える、納期を取り違える、品質要件を落とす。後で分かったときには、こちらの信用が下がります。確認することは、弱さではありません。
廣井さんが購買交渉で学んだのは、「様々な場面で使える適切なフレーズや言い回し」です。購買のやり取りは同じパターンで何度も起きます。その型を繰り返し練習すれば、聞き取れないときの返し方も、確認すべき数字も、迷わず口に出せます。
あなたがやるなら:
- 金額・数量・期日は必ず復唱して確認する。相手が「$50,000」と言ったら、「Did you say fifty thousand?」と確認する。この確認の一言を何十回も練習して、躊躇なく言えるようにする
- 聞き取れなかったら言い換えを依頼する一言を用意しておく。言い換えを頼む一言(Can you rephrase that? など)を、躊躇なく言える型として作る。廣井さんのように「やり取りの型」として何度も繰り返す
- 議事メモを英語で送って、書面でも確認する。「To summarize, we agreed on — 」という形で、決まったことを記録に残す
- 相手の返答に「え?」と思ったら即確認する。後で「あの時こう言った」と言い張られないよう、その場で3度言わせる覚悟を持つ
この準備で交渉に立った人たちが、いまどこにいるのか。最後に並べます。
「知っている英語」を、話せる英語に。シャベリッシュの無料カウンセリングでは、スピーキングの現在地診断と、期日から逆算した学習プランをお持ち帰りいただけます。無料カウンセリングを予約する「言い返せない」から「自分で交渉する」へ——記録と、いまの姿
この準備で交渉に立った人たちが、いまどこにいるのか。最後に、本人の言葉を並べます。
通訳への依存から、自分の口へ
佐野さんは映画制作の現場で、海外クルーとの要件伝達を担当しています。かつて、専門用語と微妙なニュアンスを伝える際に、発音への不安から通訳に頼る場面が多々ありました。通訳を挟むたびに、伝えたい内容が変わる、条件が曲げられる、交渉の意図が薄れる——そうした経験が積み重なっていたのです。それでも佐野さんは、音の練習に毎朝1時間を確保し、TEDトークの音読音声を毎週提出し、「リンキング」という日本語にない音のつながりに向き合い続けました。その積み重ねが「通訳に頼らず自分の言葉で伝えたい」という目標を、少しずつ現実に近づけています。自分の言葉が相手に正確に伝わる経験を重ねるほど、交渉の主導権は自分の手に戻っていきます。
中津さんは外資系企業へ転職した会社員です。転職直後から週1回の英語会議に参加していますが、当初は発音の正確さへの不安が常にあり、会議の内容に集中することが難しかったのです。その状態では、いくら言いたいことが言えても、相手に正確に伝わるのか、相手の話を正しく理解しているのか、常に不確かでした。転職から数か月、発音矯正と聞き取り訓練に集中投資した結果が「ウェブ会議で発音する際に自動的に英語が書き起こされるのですが、そこで自分の発音が正しく認識されるようになりました」という現在地です。書き起こしが正しく出るということは、相手にも同じ音が届いているということです。
吉田さんは看護師としてニューヨークで働いています。医療現場では診断結果や薬の名称など、発音の誤差が許されない場面が毎日あります。正確に伝わらなければ、患者さんの治療に関わる選択に影響する責任の重さを、吉田さんは実感していました。その緊張感のなかで、音と伝わり方に向き合い続けた結果が「患者さんとの会話を通して『通じてる!』『これで良いんだ!』と自信がついてきました」という段階です。正確に伝わる経験が、伝え方への確信に変わるまでに至りました。通じた経験が積み重なるほど、次の場面で言い切るまでの時間が短くなります。
兒玉さんは動画制作の会社で働いています。以前、シンガポールへの出張でタクシーの領収書が必要になった時、英語で電話する勇気がなく、ホテルスタッフに助けを借りた経験を持っています。その時点では、交渉という場面そのものを避けることが対策だと思っていました。それが「前は出張で海外に行っても、『どうせ聞き取れないや』『なんか言ってるな』くらいでしたが、通い始めてからは聞き取ってみよう!と聞く姿勢ができましたね」という現在地へ変わっています。逃げていた場面に向き合う姿勢が生まれ、その姿勢のなかで、小さな成功が積み重なっているのです。
これら4人に共通するのは、誰も「交渉に全勝している」と言っていないということです。佐野さんも中津さんも吉田さんも兒玉さんも、今もなお、自分の英語に完全な自信は持っていません。それでも、全員が、通訳や回避に渡していた主導権を少しずつ自分の手に戻しています。その変化は、フレーズの暗記では生まれません。自分の交渉場面を教材にし、正確に伝わる音に投資し、小さな交渉から立ち向かう習慣の中にだけ、主導権の回復は存在しています。今日の会議の一言、明日の電話の一本——次のあなたの交渉は、その積み重ねの最初の1回になります。準備した3文と、聞き返す勇気と、伝わる音——この3つを持って、次の交渉の席に着いてください。
最後に、今日からの順序を整理します。
まとめ|英語の交渉はフレーズ暗記ではなく、リード権をどう保つかで決まる
英語の交渉で負ける原因は、フレーズ不足ではありませんでした。伝わらない、言い返せない、主導権を相手に渡している。この3つの構造のどれかで崩れています。そしてどれも、フレーズをもう100個覚えることでは解けません。
やることは4つです。まず診断で、自分がどの場面で崩れているのかを特定します。次に、次の交渉の論点を教材にして、自分の主張を3文の型で先に作っておきます。金額と期日は、その場で復唱して確認します。そして、いまは通訳に回したり避けたりしている小さな場面を1つだけ、自分で言う場面に変えます。
この記事に登場した人たちは、誰も「交渉が得意になった」とは言っていません。それでも、通訳に頼っていた要件説明を自分でするようになり、言われるままだった条件に自分の言葉を返すようになっています。フレーズ集をもう1ページ読む前に、次の交渉の論点を3つ書き出すところから始まります。
